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娘諸芸出世双六
ムスメショゲイシュッセスゴロク
作者名
広重 (歌川 広重)
作者名ヨミ
ヒロシゲ (ウタガワ ヒロシゲ)
代表明細・シリーズ名称
娘諸芸出世双六
落款等備考
制作者備考
山泉堂 山城屋甚兵衛
印章等
名主単印(天保14~弘化4年)
印章注記
時代区分
弘化頃
西暦
1844-1848
形態
間判4枚貼
種別1
木版浮世絵
種別2
錦絵
種別3
ゲーム絵
内容1
おもちゃ絵 絵双六
内容2
ゲーム絵 絵双六 けいこ事双六 出世双六
内容3
唄 三味線 踊り 生花 琴 茶の湯 和歌 俳詣 書画 娘の芸事 身分
追加情報
テーマ
具体物
位置付け
画中の文字・文章
備考
「娘諸芸出世双六」と題された通り、出世を願う娘が身につけるべき芸事を
紹介するとともに、諸芸を学んだ娘が御殿に上り、貴人に仕えて出世するまでを
扱っており、人生ゲーム双六でもある。
「ふりだし」は全ての学芸の基礎である手習いで、「上り」は御殿の奥方が描かれている。
その左右の枡目には「御年寄」「御中老」が描かれており、ここが大奥での出世の最上位と
なる。他に「御妾」にはなれるが、奥方は由緒ある家柄の出でないとむつかしい。
登場する諸芸を分類すると、音曲に類するものが、唄三味線、踊り、義太夫、浄瑠璃
囃子、胡弓、琴と多い。音曲以外の遊芸では、生花、香、茶の湯があり、文芸では
和歌、俳詣、書画、盆画がある。さらに諸札や武芸もある。身の振り方では、永のお暇
縁附、宿下り、慶庵がある。武家奉公は、御目見得、部屋子、御祐筆、御髪上、御次
御茶の間、呉服の間、御小姓、御側と進む。
けいこ事の双六であるとともに女子の出世双六でもある。江戸後期になると
女子も手習いだけでなく諸芸に励み、武家奉公に上ってその芸をさらに
磨くことが、出世の道とされた。武家奉公を終えると、裕福な町家から
嫁入りの口が待っていたとされ、そのような娘事情を反映した双六である。
娘諸芸出世雙六
*「ふりだし」と「上り」を除き、最下段右下から最上段左上までの順に翻字。
【一段目】
娘諸芸出世雙六
ふりだし
広重画
○てならい子(手習い子)
(一)おどりこ(踊り子)
(二)三みせん(三味線)
(三)ぜうるり(浄瑠璃)
(四)ぶげい(武芸)
(五)しよぐわ(書画)
(六)こと(琴)
○唄・三味線
(四)こと
(五)こきう(鼓弓)
(六)はやし(囃子)
○おどり(踊り)
(一)三味せん
(二)ぼんゑ(盆画)
(三)おめみへ(御目見得)
○永(なが)のおいとま(お暇)
(二)ゑん付(縁付)
(四)けいあん(慶庵)
★さいきんしゆ?
(六)おそば(お側)
○ゑん附
この所、身のおさまりゆへ、もはや外へ出ることなし。
山泉堂 山城屋甚兵衛板
【二段目】
○義太夫
(一)いけばな(生花)
(二)茶のゆ
(三)けいあん
○浄瑠理(璃)
(二)こと
(四)上り
(六)けいあん
○はやし
(一)けいあん
(二)へやご(部屋子)
(三)さみせん
○やどさがり
(四)おちうろう(御中老)
しんるいのちぎりで
(五)浄るり
ゑんだん(縁談)ができて
(六)永のおいとま
○諸礼
(四)ぶげい
(五)こきう
(六)へやご
○けゐあん
(一)おめみへ
(二)おめかけ(御妾)
(三)おつぎ(御次)
★御奉公人口??
【三段目】
○武げゐ
(二)おめみへ
(四)わか(和歌)
★げいがすぐれて、おどりして、すぐに
(六)おそば
○いけばな
(一)はいかい
(三)こきう
(五)おめみへ
○こきう
(一)へやご
(二)おめみへ
(三)こと
○こと
(四)おめみへ
(五)けいあん
(六)こう(香)
○香
(一)おちやの間(御茶の間)
(二)おめみへ
(三)はいかい
○茶のゆ
(四)おめみへ
(五)いけばな
(六)ぶげい
【四段目】
○和歌
(一)けいあん
(二)おめみへ
(三)しよぐわ(書画)
○はいかい(俳諧)
(四)かう
(五)しよ礼
(六)おめみへ
○お目見へ
(一)ごふくの間
(二)おつぎ
(三)ごゆふひつ(御右筆)
(四)おちやのま
(五)おめかけ
○へやご
(二)おこせう(御小姓)
(四)おそば
(六)おつぎ
○書画
(一)おめみへ
(三)はいかい
(五)ごゆうひつ
○ぼん画
(四)けいあん
(五)おめみへ
(六)しよ礼
【五段目】
○御祐筆
(一)おそば
(二)おつぎ
(三)宿下り
○おぐしあげ(御髪上げ)
(四)おそば
(五)おいとま
(六)宿下り
○おつぎ
(二)おぐし上げ
(三)おそば
(四)宿下り
○お茶の間
(三)おつぎ
(四)おそば
(五)宿さがり
○ごふくの間
(一)おぐしあげ
(三)おそば
(五)宿下り
○御小性(姓)(おこせう)
おてがつきて
(二)おめかけ
(四)おそば
(六)宿下り
【六段目】
○おめかけ
(一)永のおいとま
(三)ゑん付
★いとまがでゝ□□□
(五)お目みへ
○御中老(おちうろう)
(一)ゑんづき
(二)上り
(四)おとしより
(六)やどさがり
○おとしより
(一)上り
しゆびよく(首尾良く)
(二)おいとま
(三)やどさがり
○おそば
(四)おとしより
(五)おちうろふ
(六)やどさがり
○上り・御てん
*諸芸を学んだ娘が貴人の奉公人になるという一種の人生ゲームに近いが、逆に言えば、出世のために諸芸修行を求められていたことも思わせる。女子用往来等では、琴・和歌・書画等は女性の諸芸の定番としてしばしば紹介され、生花・茶の湯も徐々に採り入れられていくが、浄瑠璃・三味線等低俗な芸として位置付けられるのが常である。さらに、本双六では諸芸の中に「武芸」が含まれている点は興味深いが、同箇所で「芸が優れて」いきなり貴人に伺候する女中へと出世するコース
が用意されているように、一芸を極めることの意義も暗に説く。また、「縁付」で嫁入りした女性が「もはや外へ出ることなし」とするのも、「貞女二夫にまみえず」という儒教道徳的建前に基づいており、いかにも教科書的である。いずれにしても、女中奉公をする際に必要な諸芸の数々と、奉公人(女中)の種類を示した教育双六である。
智 道しある世に生れなはをのつから
ひとつをしらは十をしらなん
(道しある世に生まれなばおのずから
一つを知らば十を知らなん)
*手習双紙は黒くなっても何度も練習に使用した。乾いてさえいれば、水で濡れた筆跡がはっきりと分かるからである。使用済みの手習双紙を用いている点からすれば、筆に水を染み込ませて練習しているのであろう。ちなみに手本(折手本)には「此ほと(程)はゆる と」で始まる女文が認められている。
(小泉吉永氏翻刻)
遊び方「飛び双六」
・慶庵とは奉公紹介業のこと。
・各枡目の上部には青・黄・紅の色を松皮菱で区切ってふせてある。
・同じ広重の「稽古出情振分双六」と同類の双六。
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